2019.11.18

【遊育保育の基本】子どもたちの体力が落ちてるって本当?
私は昭和39年生まれです。子どものころの遊びは外が基本でした。
浄水場のそばの湧き水、土手滑り、野球、鬼ごっこ、ケイドロ、缶蹴りなどで、雨が降らない限り室内で遊ぶというイメージもありませんでした。
そんな外遊びをしながら体幹が鍛えられ、わざわざトレーニングしなくても走る力、飛ぶ力がついてきたのだと思います。
今回は、遊育保育のエキスパート、学校法人三幸学園大宮こども専門学校専任講師、小田原短期大学非常勤講師、スイミングインストラクター、健康アドバイザーの大木寛人先生に監修していただきます。
子どもたちの体力の実態
昨今、子どもたちの体力が落ちていると叫ばれていますが、実際にはどのように状態になっているのかを検証してみます。
子供たちの身体活動の実態と問題点
多様な動きを含む遊びの経験が少なくなっている
- 活発に体を動かす遊びが減っている
文科省の調査では、約2割の子供は3歳ぐらいまでの時期に積極的に体を動かす遊びをたくさんしていないことが報告されています。 - 体の操作が未熟な幼児が増えている
5歳児になっても階段を一段ごとに足を揃えなければ降りられない児童がいることを耳にします。
このことは、かつては幼児期に身につけていた動きが十分に獲得できておらず、その結果、自分の体の操作が未熟な幼児が増えていることの表れと言えます。
体の操作が未熟であると、安全に関する能力も十分に発達していないことが心配されます。
多様な動きを身につけることで、自分の体を操作できるようになることは、健康で安全な生活を送る上ではとても大切なものです。
体を動かして遊ぶ時間や環境が少なくなっている
文科省の結果から、外遊の時間が多い児童ほど運動能力が高い傾向にありましたが、4割を超える幼児の外遊びの時間が1日1時間未満であったことがわかっています。
さらに日本幼児保健協会の調査から、約4割の幼児が近所に安心して遊ぶことのできる環境がないことがわかりました。
遊び相手を見ると1人で遊ぶ幼児も1割いて、園での活動が唯一複数の友達と遊ぶこと ができる機会になっているという幼児もいます。(幼児期運動指針 文科省より抜粋)
<大木先生の考察>
こうした環境が結果的に運動量の低下に影響をもたらします。
体を動かす機会が少なくなれば結果的に遊びを通しての経験する動きも減少します。
遊びの経験の違いは、動きの獲得・心身の発達に差をもたらします。
幼児期における運動の意義
幼児期において、遊びを中心とする身体活動を十分に行うことは、多様な動きを身に付け、心肺機能や骨形成にも寄与するなど、生涯にわたっての健康維持、何事にも積極的に取り組む意欲を育んだりするなど、豊かな人生を送るための基盤を作っていきます。
体力・運動能力の基礎を養う
①運動を調整する能力や危険回避の基礎となる能力が向上する
幼児期は神経機能の発達が著しく、5歳頃までに大人の8割程度まで発達するといわれています。
幼児期に運動を調整する能力を高めておくことは、児童期以降の運動発達の基盤を形成するという重要な意味をもっています。
②姿勢を維持し体を支える力や運動を続ける能力が向上する
筋力や持久力は著しく発達す時期ではありませんが、日頃から体を動かすことは結果として穏やかに持久力や心肺機能を高めることにもつながります。
③卒園後も活発に運動するようになる
幼児期に体をよく動かした遊ぶ経験をした子どもは、その後も活動的な傾向にあることを示しています。
生涯にわたる心身の健康作りの視点からもまずは幼児が体を動かす楽しさに触れ、その継続による運動習慣作りに努めることが大切です。
丈夫で健康な体になる
①健康を維持するための生活習慣が作られる
積極的に体を動かして遊ぶことで、お腹が空いて美味しく食事をとることができ、適度に疲労することで十分な睡眠も取ることができます。
幼児にとって「体を動かす」「元気に遊ぶことは、身体的にも精神的にも健康を維持することにつながります。
②丈夫でバランスのとれた体になる
肥満や痩身の問題は、栄養摂取の偏りと運動不足が大きな原因です。
これらは、骨の形成にも影響します。骨の形成には、カルシウムやビタミンDなどの栄養摂取だけではなく適度な運動が不可欠です。
幼児期でも適切な運動をすると丈夫でバランスのとれた体を育みやすくなり、肥満や痩身を防ぐ効果があります。
意欲的に取り組む心が育まれる
幼少期における遊びや運動に関する「有能感(運動有能感)」は遊びの経験を通した成功体験によって基礎が作られ、その後の運動やスポーツ活動に繋がっていくと言われています。反対に「無力感」を抱くとその機会も減少していきます。
協調性やコミュニケーション能力が育つ
子供が成長していく過程においては、保育者や家庭だけでなく、同世代の友達や集団との交流が不可欠です。
体を動かす遊びや運動、特にルールのある遊びやスポーツなどは社会性を育てる契機を与えてくれます。
また、体を動かして遊ぶことは、爽快感や達成感を味わいながらのストレス解消にもつながります。
認知能力の発達にも効果がある
運動を行うときは状況判断から運動の実行まで、脳の多くの領域を使用します。
近年、運動が知的能力にも良い効果をもたらす可能性が示されています。
日本学術会議は、「素早い方向転換などの敏捷な身のこなしや状況判断・作戦などの思考判断を要する全身運動は、脳の運動制御や知的機能の発達促進に有効である」と述べています。
つまり、遊びや運動が「認知的機能の発達促進」に寄与する可能性があることを示唆しています。
運動嫌いにしない身近な大人の対応
運動が苦手な子どもは乳幼児のころから苦手なのでしょうか?
運動を嫌いになるかどうかは大人たちのアプローチ次第です。運動の経験が快感情か不快感情かのどちらかです。
大人たちがどういう仕掛けをして子どもたちの運動を促すかが問われます。
「幼児期運動指針」では次のような方針を定めています。
生涯にわたってスポーツを楽しむための基盤を育成するために
(1)保育者に向けて
①「いろいろな遊びの中で十分に体を動かす」ことができるようにする。
②「自発的に体を動かして遊ぶ」ことができるようにする。
③「安全に楽しく遊べるかんきょうを作る」ことができるようにする。
④「保護者と連携し、共に育てる」ことができるようにする。
(2)保護者に向けて
①多様な動きが含まれる遊びを取り入れる。
②楽しく体を動かす時間を作る。
③楽しく安全に遊ぶことができる環境を作る。
<大木の考察>
親は子どもにとって「親」であり、「指導者」ではありません。
例えば、鉄棒遊びにおいて、「なぜ逆上がりができない?」など結果に対して意見を言ったりしている。
また、親が指導者のように助言をしたりしています。
家庭では、プロセスや取り組んだ姿勢などを褒め、技術に関しては一緒に練習しようという声かけをすることを心がけましょう。
子どもに寄り添いながら「楽しみ」を奪わないように「楽しさ」を継続できるようにしていきたいものです。
技術的的な指導は専門家に任せてみてはいかがでしょう。
運動嫌いが及ぼす影響
運動が嫌いだったり苦手だったりするとどのような影響が出てくるかを検証してみましょう。
運動が嫌いだったり苦手だったりすると、外で遊ぶことが苦手です。
子どもが運動不足になると、単純に学校で体育の成績が悪くなります。
すると将来スポーツの分野で活躍できなくなるだけではすまない問題が発生します。
むしろ肥満や生活習慣病など、健康面において大きな悪影響に繋がる危険性の方が深刻です。
健康面に大きな悪影響が出れば医療機関への受診が必要となり、医療費がかさみます。
全体の医療費がかさむと現行の医療保険制度では賄いきれなくなり、介護保険のような新しい保険制度を創設する必要が出てきます。
その財源は税金ですので、増税が予測されます。という「負のスパイラル」に陥ることが危惧されます。
<大木の考察>
この状況も大人に原因の一端があると考えます。
子どもたちは「一緒に遊ぼう」とサインを送っていますが、大人は「今忙しいから」という理由でサインを見逃します。
子どもにはスマートフォンを渡し「youtube子育て」をしたり、ハイスペックなおもちゃや有料の成長型カードゲームをしている子どもを見かけます。
その裏で大人はスマートフォンのゲームに夢中だったりもします。
スマートフォンの触らない時間が増えれば、子どもとの関わりも増えるのではありませんか。
遊びを通して養う基本動作
まず、基本動作とは何かを定義しておきます。文部科学省では下の表に示したような動きを3つに分けています。
基本的な動き(基本動作)
「なぜ、様々な遊びを取り入れることが必要なのか」(文部科学省)
上記の3つの動きをどのように養うかが課題です。
課題1:保育園以外での体を動かす機会の確保
幼児にとっては、登園日以外でも体を動かす必要があることから、保護者も共に体を動かす時間の確保について工夫することが望まれます。
工夫例)
- 家族で外出した際に、できるだけ歩く、階段を上る、降りる、をちょっと心がける。
- 万歩計を利用して、今日の歩数目標を設定し、到達したらシールなどを貼って成果を可視化する。(あくまでも内発的動機付けにおける成果の可視化)
- 普段車で移動している道を歩いてみると景色を見るスピードの違いから意外なものに気付ける経験。
ただし、注意も必要です。
- 体に過剰な負担が生じることのない発達の特性に応じた遊びを中心に展開する。
- 幼児の身体諸機能を十分に動かし活動意欲を満足させること。
- 一般的な発達の特性の理解に加えて一人一人の発達に応じて配慮する。
<大木の考察>
生き物を飼うとき飼い方や長生きさせる方法などを調べるかと思います。
それと同様に保育も様々な内容を学ぶ必要があります。
保護者は乳児期に関しては本を読んだり子育てセンターで質問をしたりしていますが、幼児期になると極端に減るのではないでしょうか。
発達段階によって成長が著しい時期があります。それに合わせて生活することで健康的な子どもが育っていくものです。
子供達が成長していくと同じぐらい大人も成長しなければならず、成長するには大人も学び続けなければならないと思います。
専門家としての意見
全体を通して今回の監修者で遊育保育のエキスパートの大木寛人先生の意見を伺います。
子どもの運動能力や健康に関しては、直接的にも間接的にも大人が影響しています。そしてその大人は子どもたちにとって毎日目にする「教科書」でもあります。
子ども達に100点の生活習慣をしてもらいたいのであれば私たちは150点の生活習慣が求められます。
また、子ども達のすべての行動のエネルギー源は「楽しい・嬉しい」といった快感情です。この感情を出せるような関わり方も大切な要素になるでしょう。
「私たちの普段の行いやコミュニケーションが全て子ども達に還元される」と考え、品位や尊重を重んじ、大人同士結束し情熱をもって教育に取り組んでいって欲しいと思います。
まとめ
世界ではどのような基準を設けているでしょうか。世界の「子どもの身体活動におけるガイドライン」概要から見てみましょう。
このガイドラインでわかるように、子どもの身体活動への意識や目標設定には大きな違いがないことがわかります。
ケガをするから、危ないからと言って子どもたちの身体活動に必要以上にブレーキをかけないことが必要です。
今やスポーツはデータ、運動生理学などの人間工学に基づいた科学です。子どもの発達に合わせた身体活動を科学する時代になっています。
<参考文献>
子どもを運動嫌いにさせない。体を動かすのが楽しくなる、手軽なエクササイズ4選
https://melos.media/children/40281/
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記事公開日:2019.11.18
記事更新日:2021.07.12