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2019.11.04

食育保育の基本スキル

食育保育の基本スキル

人間は食でしか栄養を取ることができません。
保育士は栄養士ではありませんが、園児の一番近いところにいる者として食の安全についての知識があると、栄養士との話もスムーズですし、保護者からの信頼も厚くなります。
「三つ子の魂百まで」ではありませんが、子どものときに食べつけたものは一生食べると言われています。

橋本 橋本 圭介(はしもと けいすけ)

 学校法人三幸学園
 大宮こども専門学校専任講師
 小田原短期大学非常勤講師

今回は、学校法人三幸学園東京こども専門学校専任講師、小田原短期大学非常勤講師、管理栄養士で食育インストラクター、特定保健指導員かつ保育士の喜多野直子先生に監修していただきます。

喜多野先生 喜多野 直子(きたのなおこ)

 学校法人三幸学園東京こども専門学校専任講師
 小田原短期大学非常勤講師 
 管理栄養士で食育インストラクター
 特定保健指導員かつ保育士

 

 

食育という概念と歴史

食育基本法から考えると「国民一人一人が、生涯を通じた健全な食生活の実現、食文化の継承、健康の確保 などを図れるよう、自らの食について考える習慣や食に関するさまざまな知識と、 食を選択する判断力を身につけるための学習等の取り組みのことである」と言えます。

食育の歴史を語る上で、忘れてはいけない二人がいます。石塚左玄と村井弦斎です。
石塚は『化学的食養長寿論、通俗食物養生法』という著作の中で、「体育智育才育は即ち食育なり」と言い、村井は、自身の連載『食道楽』の中で「小児には徳育よりも、智育よりも、体育よりも、食育がさき。体育、徳育の根元も食育にある」と記述しています。

その後、蓬田康弘は、1977年に財団法人幼児開発協会の機関誌『幼児開発』へ『食育のすすめ』を連載し2002年11月21日、自民党の政務調査会に「食育調査会」が設置され、本格的に食育への研究が始まりました。

「食育によって国民が生涯にわたって健全な心身を培い、豊かな人間性を育むことを目的としている」食育基本法が2005年(平成17年)に成立しました。

食育基本法制定の背景

食育が注目されてるようになった背景には代表的なものとして以下の7つが考えられます。

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こう見ると、食育は単に、食べ方のしつけや食事についての内容だけにとどまっています。
家族の食生活もその様相を変化させてきました。昭和時代では、食事は家族全員がそろってから始める。
主にお母さんの手作りのおかずが食卓に並び、その日に会ったことを家族がそれぞれに話し合う場でもありました。
「サザエさん」の夕食の風景です。家族の座る位置も決まっています。
家長である波平(父)が中心に座り、隣にフネ(母)隣にサザエ(娘)と固定されています。平成に入ってからは、外食産業がさらに伸び、共働き家庭では外食が増えました。また、食品の安全に関する表示等、健康と栄養に関する諸科学の発達により、食生活は多くの知識と技術を必要とする食生活へと変化していきました。

このような背景から食に対するきちんとした国の方針が必要となっていました。
「法律ができたから食育をやる」という消極的なスタンスではなく、体を作っていく大事な時期の子どもたちへの食事を本気で考える時期が来ています。

保育所保育指針における食育

法的な拘束力をもつ保育所保育指針において食育はどのような表記と位置づけになっているか見てみましょう。
保育所保育指針 第3章 健康及び安全の2に食育の推進。

保育所の特性を生かした食育

  1. 保育所における食育は、健康な生活の基本としての「食を営む力」の育成に向け、その基礎を培うことを目標とすること。
  2. 子どもが生活と遊びの中で、意欲をもって食に関わる体験を積み重ね、食べることを楽しみ、食事を楽しみ合う子どもに成長していくことを期待するものであること。
  3. 乳幼児期にふさわしい食生活が展開され、適切な援助が行われるよう、食事の提供を含む食育計画を全体的な計画に基づいて作成し、その評価及び改善に努めること。栄養士が配置されている場合は、専門性を生かした対応を図ること。

食育の環境の整備等

  1. 子どもが自らの感覚や体験を通して、自然の恵みとしての食材や食の循環・環境への意識、調理する人への感謝の気持ちが育つように、子どもと調理員等との関わりや、調理室など食に関わる保育環境に配慮すること。
  2. 保護者や地域の多様な関係者との連携及び協働の下で、食に関する取組が進められること。また、市町村の支援の下に、地域の関係機関等との日常的な連携を図り、必要な協力が得られるよう努めること。
  3. 体調不良、食物アレルギー、障害のある子どもなど、一人一人の子どもの心身の状態等に応じ、嘱託医、かかりつけ医等の指示や協力の下に適切に対応すること。栄養士が配置されている場合は、専門性を生かした対応を図ること。

保育所という集団支援の場を活用しての食への教育を、食の楽しみを通じて子どもたちの伝えようとしています。
みなさん保育現場ではどのような食育をされていますか。

食べ方は生き方

私は、その人の食べ方はその人の生き方であると感じています。まず食べ方について考えてみましょう。
食べ方には、何を食べるか、どこで食べるか、誰と食べるか、どう食べるかなどがあります。このようにまとめてみました。

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児童養護施設に入所してくる子どもたち(原則18歳未満)の食生活は安定しません。

好きな時間に起きて、好きな時間に好きなものを好きなだけ食べる。そんな食べ方をしてきた子どもたちの生き方はやはり雑です。
そういう子どもたちが入所してくるとまずは三食きちんと食べることから始まります。
三食時間とおりに食べることで生活のリズムが整ってきます。生活のリズムが整うと気持ちも整います。

きちんとした食べ方をしている人は、きちんとした生き方をしているように感じます。

最近、調子悪いなあ、とか、なんか気持ちが落ち着かないなあ、という人は自身の食生活を振り返ってみることをお勧めします。
食べたいものを食べるよりも、いま、何を食べたらいいかを考えてみましょう。

こども食堂をどう考える

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「増え続けるこども食堂 2019年に過去最大の年間1,400ヶ所増で全国3,718ヶ所に」こんな言葉が踊っています。
農林水産省が行った「子供食堂向けアンケート調査」によれば、平均的な参加人数は一回20人程度で、開催頻度は、月に1、2回が73%で、毎日開催しているところは約3.3%。
過半数のこども食堂は無料で、有料としているところでも料金は100円程度です。
子ども食堂はおおよそ2010年あたりから始まったと考えられています。
10年近くが過ぎて、今やほとんどの人が一度は耳にしたことのある名前だと思います。

もともとのスタートは、家で食事ができない子どもたちに食事を出すという極めてシンプルなコンセプトからでした。
それが大人も利用できるようになり、今や、子どもたちの居場所的な役割を果たすようになっています。

その意味では子ども食堂は食育の最前線を行っている存在であると言えます。

ここまで広まっている子ども食堂、社会的な意義は大きく存在価値は高くなっています。
しかし私は一つ懸念があります。
それは、いままではなんとか食事を作っていた親が、子ども食堂の存在を知るやいなや、子ども食堂で食事してこいとばかりにお金だけ渡すことにならないだろうか。ということです。

自炊する力を養う

そこで登場するのは最近注目されている「自炊する力」です。

「貧困の連鎖を断とうと「自炊力」に注目した試みが始まった。自炊は材料費や手間がかかる印象もあるが、コツをつかめば、安く栄養バランスのいい食事を作ることができる。生活リズムの変化や給食がないことで、十分食べられない子が増える夏休みに合わせ、二つのNPOが協力して高校生向けに買い物や料理の方法を教える」(朝日新聞より)。
引用:https://www.asahi.com/articles/DA3S14153790.html

お菓子の老舗の井村屋はこの活動に同社の*CSRの一環として、食材を提供しています。
CSRとは、企業の社会的責任として、企業が倫理的観点から事業活動を通じて、自主的( ボランタリー)に社会に貢献する責任のことである。

専門家の視点

ここでは、管理栄養士で食育インストラクター、特定保健指導員かつ保育士の喜多野直子先生に専門家としての意見を聞いてみます。

「食育」について何をとりくんだらよいかわからない、という保育士さんの声をよく聞きます。
「食を営む力」の育成に向け、その基礎を培うことを目標とすること。という言葉からも困惑することでしょう。
難しく考える必要は全くありません。まずは大人が「食」に興味を持つことです。
「食育」は生きる上での基本であって、知育・徳育・体育の基礎となるものです。食事次第で気持ちも変わりますし、学力や運動能力にも影響します。
(詳しくは『保育士の基本スキルcolumn 早寝早起き朝ごはん』参照)
それだけ「食」の影響力は大きいということです。
食に興味を持てば、今、口にする食材も気になるでしょうし、行事食の意味も知りたくなることでしょう。そこから広げて行けば良いのです。

「食育」は幼児期だけでなく、あらゆる世代に必要です。作ってくれた人への感謝、そして、命をいただく「いただきます」という本来の意味を子ども達と一緒に今一度考えることから始めるのも良いでしょう。

橋本圭介,2018『保育士の基本スキル』秀和システム(https://www.shuwasystem.co.jp/book/9784798050522.html

まとめ

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保育者が当たり前だと思ってしていることは、保護者にしてみればちょっと変だと思っていることがあります。
園児がその板挟みにならないような配慮と保護者との理解のすり合わせをすることが必要ですね。
これも保護者支援のひとつです。
ぜひ、保育者から声をかけて欲しいと思います。

 

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記事公開日:2019.11.04

記事更新日:2021.07.16