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2019.10.14

待機児童が問題だと言われてますが、実際にはどうなっているの?

待機児童が問題だと言われてますが、実際にはどうなっているの?

待機児童は解消されたのですか?答えはNOです。
政府はさまざまな施策を打ってきましたが、決定打に欠け、なかなか解消できていないのが現状です。
今回は、待機児童が問題と言われていますが実際のところはどのような状況なのか、どういう対策を打っているのか、最終的に解消するものなかを検証してみます。

 

橋本 学校法人三幸学園
 大宮こども専門学校専任講師
 小田原短期大学非常勤講師

 橋本 圭介

 

 

待機児童が叫ばれたのはいつ?

一週間の新聞記事の中で、待機児童を取り上げない週はないくらい問題視されている待機児童問題、いつごろから発生したものでしょうか。

1960年から1970年のベビーブームを受けて保育園が不足しました。
そして1990年(平成2年)の1.57ショックで策定された「エンゼルプラン(平成 7-11 年度)」、 「新エンゼルプラン(平成 12-16 年度)」では保育の充実が図られ、保育所定員と在所児童数は増加しました。
その一方で、育児休業制度が拡がり、出産理由の退職が減り、低年齢児(0~2 歳)保育の需要が飛躍的に増大したのも事実です。
その後、女性の社会進出も盛んになり、出産した翌日からでも戻ってきてほしいという企業ニーズ、母親も今までのキャリアを切りたくないという気持ちも相まって、新しい保育需要が生まれてきました。
その後、毎年、待機児童問題が浮上しては消え、その繰り返しです。
令和の時代になってこの問題は解決の糸口すら見いだせていないのが現状です。

待機児童となる原因

待機児童になる原因は多様化しています。
単純に保育園が少ないからという簡単な理論では太刀打ちできません。では、この待機児童となる原因は何かを探ってみます。

人口の流動化による都市部での待機児童問題の深刻化

総務省によると、0〜4歳までの子供の数は、東京都内では5年間で3万人も増えました。
とりわけ、世田谷区や板橋区などは、特に待機児童数が多く、認可保育園の設置を進めていますが追い付いていません。

保育士不足

園舎も建てた、遊具も入れた、園児も決まった。
さていよいよ開園!、と思ったら実は保育士がいなかった・・・。というお粗末な話が実際に起こっています。
ある園は園自体の経営が立ち行かなくなりました。ある園では、2歳児クラスが開園できませんでした。
まんがのような話ですが実話です。
保育士不足には”もともと保育士にならない”という人が多い一方で、現職の保育士が”突然退職する事態”が発生しています。
保育士がいなければ子どもを預かれません。

女性の職場復帰への期待

「早く保育園決めて、職場に戻ってきてねー」。退職日での辞めた女性社員への言葉でした。
女性の職場復帰を求められるのは、一方で社会全体の人材(人財)不足があります。 

別の見方をすればそれだけ女性が社会に必要とされている証拠でもあります。
キャリアを切りたくない女性たちは一日でも早く職場へ戻りたいと考えているでしょう。
働く女性が増えた裏側では、子育てに消極的な父親の姿が透けて見えます。

「認可保育園」の設置の難しさ

ここで待機児童の定義をしておきます。保育所入所待機児童とは「調査日時点において、認可保育施設に入所申込が提出されており、入所要件に該当しているが、入所していない園児」と言えるでしょう。
待機児童が多いなら、認可保育園を増やせばいい、という短絡的なものではありません。

何が簡単にいかないのでしょうか。
まず、土地の広さがあります。つまり、認可保育園を設置基準に該当するのに十分な広さの土地が少ないことです。
したがって一部の自治体では、使える公有地は使ってしまったという事態になっています。
また、新しい保育園を設置するとなると、地域の人たちの賛成がないことには設置すらできないの状況です。

核家族化

核家族化と言われて久しいですが、保育業界には大きく影響を及ぼしています。
日中、祖父母へ預けることが難しくなっていく中、保育需要はそれに伴って高くなっています。

核家族化のひとつの要因に、都市部への人口流入があります。
転勤や都市部で雇用の機会を得ようとする人たちが増えたことも事実です。

待機児童の実態

厚生労働省は2019年9月初旬に待機児童が同年4月1日現在で16,772人だったと公式発表しました。
この数字は前年同日比3,123減って過去最少となったと報じられています。
しかし、2020年までの政府の「待機児童ゼロ」という目標には時間がかかりそうです。
この減少は都市部での企業主導型保育施設の増設が進んだことがあります。

データによると、減少トップ5は、第5位が沖縄県うるま市で161人減、第4次は岡山市で196人減、第3位は千葉県市川市で247人減、第2位が目黒区の251人減、そして第1位が江戸川区で270人減でした。逆に増えたところもあります。
那覇市(+112)、福岡県福津市(+87)東京都東村山市(+86)さいたま市(+78)そして東京都北区が+77という結果でした。

学童待機児童の状況

待機児童というと、保育園待機児童をイメージしますが、もう一つの待機児童がいます。
それが学童待機児童(正確には、放課後児童クラブへ入れない児童)です。
放課後、家に保護者がいないなどの理由で通う学童保育(学童)の利用が年々増加している中、新1年が新たに入ることに伴い、利用していた新2年が別の学童に通わざるを得ない事態も生じています。
グラフからわかるように、この現象は首都圏で著しいことがわかります。

学童保育は1997年の児童福祉法改正で、初めて法的に位置付けられました。
厚生労働省の調査では、学童保育を利用する児童数は2018年5月時点で123万4366人と10年前の1.5倍に増えています。
また学童待機児童は1万7279人で、こちらも10年前の1.3倍に増えているのが現実です。

私はここ数年、栃木県、東京都の放課後児童支援員(いわゆる学童の指導員)の養成講座の講師をつとめましたが、集まってくる皆さんの私の講義を聴く真剣な眼差しは今も焼き付いています。

引用:https://sukusuku.tokyo-np.co.jp/education/13456/

【行政の施策】どうやったら待機児童が減る?

国及び地方自治体などの行政の政策は、「待機児童ゼロ作戦」(2001~2008)「待機児童解消加速化プラン」(2013~2017)、「子育て安心プラン」などがあります。
今、現在進行しているのが、「子育て安心プラン」です。その実施期間を2017年~2019年としています。以下のように受け皿拡大のための様々なメニューを盛り込んでいます。

  1. 都市部における高騰した保育園の賃借料補助
  2. 幼稚園における2歳児の受け入れや預かり保育の支援
  3. 保育提供区域毎の待機児童解消の取組状況の公表

2つ目のプランは「保育を多様化する」と題して少人数での保育、企業内の保育園の充実を図り、一時預かり事業や病児保育事業など、子育ての様々な悩みに応える支援もしています。
そして、3つ目のプランは「保育人材を確保する」と題し、2020年度末までに32万人分の保育の受け皿を確保することを目標にしています。そのために、

  1. 保育士資格の取得を目指す方への教材費等の補助の拡充
  2. 保育士の勤務環境改善に取り組む事業者に対して、保育補助者を雇用する資金の拡充
  3. いったん仕事を離れた人が再び仕事に就く場合の再就職準備金の拡充

それぞれに効果が期待される内容ですが、税金を使ってやることですから、しっかりとした成果が期待されます。

【民間の施策】どうやったら待機児童が減る?

日本の保育、教育、福祉は行政が主体になっています。
教育行政、福祉行政、そして保育行政とあくまでも行政から発信されたものを民間がそれを受けて実施するというやり方。
私はこれをガバメントアウトと呼んでいます(反対語は市民主体でシビルアウト)。
そしてガバメントアウトでもなく、完全な民間でもないNPOが大きな役割を果たします。NPO(非営利活動法人)は行政でもなく民間でもない第三の組織と言われています。
日本のNPOは諸外国のNPOと比較するとまだまだ発展途上にありますが、フットワークが軽いことは事実です。NPOの動きにも期待したいところです。

実際に調べてみると、日本の保険会社が待機児童対策をやっています。
具体的には、新設の保育所等が保育の質を高めるために、独自に実施する保育計画にかかる備品等の購入費用(の一部)を助成しています。
2018年度の報告によると42 施設、助成申請総額 2,979 万円を助成しています。これはCSRの一環であると思います。直接経営にかかわらずとも、部分的に助成する方法も有効であるという一例です。

まとめ

待機児童問題は単に保育園に入れない子どもたちが困っていますというだけではありません。
保育士不足、保育の質の低下、助成詐欺、審査の甘い企業主導型保育施設と枚挙にいとまがありません。
待機児童問題は行政と民間とが協働してしっかりした基準を作り運営することが急務です。
「事件は役所で起きているんじゃない、保育室で起きている。」肝に銘じておきたい言葉です。

 

<参考文献>

●待機児童2年連続減 日本経済新聞 2019/9/6
●待機児童なお1.6万人 日本経済新聞 2019/9/1

●我が国の保育の現状  -規制緩和、待機児童、学童保育を中心に
http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_1000697_po_0490.pdf?contentNo=1&alternativeNo=

●第一生命財団待機児童対策
http://group.dai-ichi-life.co.jp/dai-ichi-life-foundation/jyosei/index.html

 

 

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記事公開日:2019.10.14

記事更新日:2021.07.08